1. このガイドについて

このガイドについて(初めての方は必読です)

JCHO中京病院 症状コントロールガイド VER. 2.0
2018年10月 文責 緩和支持治療科 吉本鉄介

ガイドの使用法と作成コンセプト

このガイドの目的は?

患者さんを守る「情報の盾」を提供することです。症状コントロールに困難を感じたときには、システマティックなレビュー(見直すこと)が必須です。とくに往診ドクターや訪問看護師さんが、現場や医療チーム内カンファレンスで「解決」をするためのヒントがスマホやタブレットで得られる、というイメージを想定して作りました。

  1.  提供コンテンツは、我々が病棟や外来で院内緩和ケアチーム(HPCT)として使用しているものです。在宅チームと情報交換して得た情報もありますが、主として急性期医療の場からのものであることに留意ください。
  2.  院内・院外の緩和ケアを専門としない医療者を対象としています。ガイドラインや教科書ではなく、我々が得た「クリニカルパール」*の集合体です。
  3.  安全・有効性を保障するものではありません。緩和ケア全般に言えることですが、エビデンス(実証研究)はたいていの場合不十分で、患者さんの状態も不良な事が多く、保険適応外の使用も少なくありません。

ゆえに ⇒ エビデンスからの「演繹法」では不十分なので、クリニカルパールを用いた「帰納法」的な解決法が求められる場面が多いことになります。

* クリニカルパール Mosby’s Pocket Dictionary of Medicine, Nursing & Health Professions (2016) によると “A short, straightforward piece of clinical advice“と定義され、訳すと 『ワンフレーズの簡潔かつ実践的な臨床アドバイス』となります。豊富な臨床実体験から抽出された、あまり知られてない経験則を手っ取り早く伝えうる教育ツールとも言えます(Mangrulkarら、2002より)。

なぜ 5大症状なのか?

  • 痛み、吐き気、息苦しさ、だるさ、せん妄が頻度と重篤さ双方で最重要=「5大症状」である。これは1500件以上の我々緩和ケアチーム回診を根拠とした主張です。
  • 進行がん患者さんには、数十に及ぶQOLを低下させる身体・精神症状が起こってきます。しかし、パレートの法則*「QOL低下の80%は、約20%の少数症状が原因である」および「最重要20%の症状コントロールに情報収集努力の80%を注ぐべし」といえるでしょう。

※パレートの法則
 “結果の約80パーセントは20パーセントの原因から生じる“という経験則

  • 症状がとれず、あれれ、なぜだろう? という時には「見直し(再レビュー)」が必須です

「情報の楯」の3つのパーツ解説

「楯」のパーツその1

問診は 盾の最重要パート、これだけで問題解決ができてしまうこともあるほどです。

  • 「何を、どういう順番で聴くか?」は、患者さんのもとに行く前に決めておくべきです。
    我々医療者は時間制限のある中で最適のサービス提供をする必要があり、これは寿司を握る職人と同じで「注文がきた、さて、どうしよう」ということはありえないのと同じです。
  • 必須情報を短時間で得る問診のテクニック – アルファベットの O から V まで
    せん妄を除く(意識障害なので問診自体が難しい)4大症状において必須情報見落とし、聞き逃しは致命的です。系統的な聞き取りテクニックの1つである、カナダのVIHA(バンクーバー島ヘルスオーソリティ)が用いている訪問看護や往診ドクターサポートツールを我々はおすすめしています。これは、アルファベットのOからV=“OPQRSTUV”の順番になって覚えやすく、訪問医療など時間が限られた現場で便利です。こういったものはMNEMONIC(記憶補助語)といい、時間が限られ見逃しが許されない救急医療や総合内科でよく用いられるテクニックです。

    • 発症(Onset)=いつからの症状ですか? 頻度や増悪傾向があるかも聞く。
    • 悪化と軽減(Provoking & Palliating) =悪化する要因、軽減する要因は何ですか?

    例. 冷やすと悪化。動くと悪化し安静で軽減する。排便後は楽になる等々。

    最初の2項目がアセスメント(なぜ起きているのか)最重要情報です。
    OPQRSTUVニーモニックでは、これが最初に置かれており、聞き取りが難しい患者でも便利にできています。

  • これに加えて 以下の4項目を問診すれば必要十分な情報は得られます。
    そして、系統的な聞き取りは、外部専門家コンサルやチーム内カンファレンスにも有用です。

    最初の2つ(OとP)が最重要ですが、続いて以下の4つの情報収集を行います。

    性質 (Quality)
     どんな症状?言葉であらわすとしたら? 例. しびれる痛み。
    場所(Region)
     体のどのへんに問題がありますか? 例. みぞおち。下半身が。
    強さ(Severity)
     10点満点で何点ぐらい(0はなし、10最悪)?強い、中等度、軽度?
    効き目(Treatment)
     現在や過去にうけた治療の効果はどうでしょうか?

    患者理解と生活障害(Understanding & Undermining)
     何が原因とお考えですか?
     および、症状が引き起こす生活障害(できないこと、困っていること)を教えて下さい。
    治療ゴール設定(Values)
     治療による生活障害の改善が目標ですが、どのようなゴール設定がよいでしょうか?
     これぐらいなら快適だ(点数表現も可能なら)というレベルは?
     例. この数日のうちに、夜痛みで目が覚めないようにしたい
     → 患者・家族と話し合いて「目的の共有」がスムーズな症状緩和につながります。

ちなみに疼痛では、心電図のパートP波Q波R波S波T波になぞらえて痛みを聞き取る(ニーモニック)をトワイクロス先生が著書(Pain Relief in Advanced Cancer, 1990)で紹介しておられます。

「楯」のパーツその2

問診で得られた情報(できれば画像や採血結果からも)より考えられる原因とその治療法の鑑別、および 治療方針の定型化(オーバービュー)も必須アイテムです。

  • 進行がんのケアにおいて、見逃し、見落としは、許されない状況が多いです(やり直し不能)
    診断と治療方針のリストは必須の武器です。
    例. 吐き気どめが効かない、なぜ? ⇒ 実は、右心系の心筋梗塞!

  • 治療方針を立てるカンファレンスにおいて「全体のオーバービュー(俯瞰図)」は、医療チームのストレスを軽減しカンファレンスの価値が高めます。
「楯」のパーツその3 ツールを理解するためのレクチャー資料

5大症状のレクチャー(当院の集合研修用)を PDFとして添付しました。

  • そもそも「痛みとは?」「吐き気とは?」という根本的な概念からのレクチャー
    ⇒ 見逃しを防ぎ、複雑な病態に対応できる工夫です。
  • レクチャー内では、リストやフロー図の使い方も説明してあります。
    症状がとれないときはもちろん、訪問前の予習・振り返りツールとして一読する事をお勧めします。