悪心嘔吐の原因検索の方法

悪心嘔吐の原因検索の方法

★ 進行がん患者を苦しめる最も重要な不快な症状の1つで、QOL低下や栄養障害、肺炎などの二次障害のリスクも高い。

★  CTZ(ケモトリガーゾーン、化学受容器引き金帯)= 悪心(気持ちわるい)と嘔吐(吐くという反射を起こす)の中枢は、はごく近くにあるが別の中枢で ある。しかし双方の一方のみ(悪心が強いが嘔吐はおこらない、逆に嘔吐はあるが悪心を伴わない)は、臨床的にまれなので悪心嘔吐(Nausea and Vomit, N/V)と一括した扱いをすることが多い。

★ 以下の図のように 悪心嘔吐の中枢には、大きくわけて5種類の求心性パルスが伝わることで、患者の症状が発生するとされる。進行がんの患者で、どのパルスの頻度が高いか、難治性が高いか、などは明らかでない(臨床研究がない)。
対症療法としての各種薬剤(プリンペランTM、セレネースTMなど)の効果も高くないことが米国の観察研究で報告されており、「ワンパターン」対症療法は通用しない。
したがって、進行がんを治療・看護する場合は、以下のパルスを探索・推定して治療にあたることが推奨される。

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★ がん進行期で、緩和ケアチームにコンサルトされる悪心嘔吐のうち、経験的にもっとも多い原因は、上部消化管(食道~十二指腸)の漿膜異常伸展(内圧の上昇)または粘膜炎症(潰瘍形成を含む損傷)による内臓神経を介した求心性パルスが延髄の嘔吐中枢に伝達されることである。

この伸展と炎症は、悪心嘔吐により消化管のダメージを防ぐための「防衛反応」と解釈することができる— 嘔吐して減圧・内容物を排除することでダメージを「防衛」。腎結石や胆石発作の悪心嘔吐も、同じ理由(実質臓器の漿膜伸展)と思われる。

★ 「ある意味正常な」防衛反応でもあるため病因指向性(Etiology Oriented)な治療をしないで、安易な対症療法を行うことは、患者QOLを損ない思わぬ合併症を生じるリスクもある

例 えば、消化管の完全閉塞へのプリンペランIVによる嘔吐・腹痛・穿孔リスク、セレネースなどのドパミン受容体拮抗薬の多用による不快な鎮静(苦痛がある が、訴えられなくなる状態)、薬剤パーキンソン(固まったような無動状態)、アカシジアによる転倒・誤嚥性肺炎を起こすなど。

★ 悪心嘔吐の原因として最多の内臓神経求心パルスの原因となる疾患は多彩であり

下記のようなチェックリストを使用することを推奨します。

緩和ケアチームへのコンサルテーション例のような、主治医にとって不明・治療困難な症例では、我々のチームの経験では、病因が3つ程度存在することが多いようです。
複数の病因があれば、それぞれに対応しないと、「すっきりよくならない」。
しかし逆にいえば、病院1つ1つの反応性が不良でも、複数の治療が「相加的に」患者さんの症状を軽減することもが期待できます。だからリストを使って「探索」を推奨するのです。

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★ 上記の疾患リストは、非がん疾患での使用も可能な包括的なリストですですが、

進行がんに特有な悪心嘔吐症候群(腫瘍による胃内容排出障害をきたす)として Squash Stomach Sydrome および Floppy Stomach Syndromeの2つは大変重要です。

経験的に、コンサルト例での頻度が高いことや、「内視鏡や通常の造影検査」では、大きな異常なし、という認識をされ病因を見逃されがちです。

この2つの症候群を認識していないと、患者は食事や飲水ができなくなり患者QOLを大きく損なうので、パターン認識し早期に対応できることが大事です。

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★ 上記の消化管(特に上部)からの求心性パルスが原因となることが圧倒的に多いので以下の図にイメージをまとめて理解をしやすくしました。

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★ 内臓求心性パルスによる悪心嘔吐が最多、特に上部消化管によるものが主体です。しかし下の図のように、それ以外の原因も合併していることも少なくありません。
症状の改善が得られない場合はもちろんですが、探索を怠らないようにしてください。特に薬剤性の可能性については、病棟やチームの薬剤師と相談することを推奨します。

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★ 病態ごとの伝達経路上にあるレセプターのイメージを下の図に示しました。原因を探索して、それぞれのレセプターをブロックすることで、効率よく悪心嘔吐をコントロールできるかもしれない。

しかし探索結果が正しいとは限らない、実際の薬剤がレセプターを理論通りにブロックするとは限らないので、あくまで「薬剤を選ぶ場合の目安」と考えてください。

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