イレウス(胃十二指腸より下の閉塞)嘔気・嘔吐への対応

イレウス(胃十二指腸より下の閉塞)嘔気・嘔吐への対応

治療選択肢をあげると 以下の5つです。
・ステロイド
・消化管内分泌抑制薬(減圧)
・中枢性制吐剤
・患者ごとの経口摂取の制限
・絞り気味の輸液
・腹痛へのオピオイド

薬物療法で嘔気が減ると経口摂取を希望される方が多くなりますが、経口摂取が増えれば通常また症状がひどくなるので、患者さんに説明したうえで「苦痛が増えるかもしれないけど食べてみる」か、「安全策をとってひかえる」かの選択になります。腹満、疼痛は内臓痛に準じてオピオイドを使用してください。蠕動を低下させたくない場合はフェンタニールが、「再開通に見切りをつけて」蠕動を低下させることで鎮痛をはかりたい場合にはモルヒネが推奨されます。
NGチューブを留置して、「胃や消化管の拡張伸展を防止」することは対症療法として有用です。 ただし、用い方に工夫する余地がある場合が多い(重症例では定期的に排液して減圧する、症状ある時に間欠的使用、夜間のみ定期的に留置、寝る前に入れて抜いてから寝るなど、患者の希望に合わせる)。
NGが長期間必要な場合、NGよりはドレナージ目的のPEG(消化器内科)やPTEG(外科)も、患者QOL上よりよいことがあります。
★ イレウスのときの輸液を「絞る」理由

予測予後が短く症状緩和を目標とする症例では、多すぎる輸液(overhydration)が消化管分泌を亢進し、症状緩和を困難にするとの見解が一般的です。
通常のイレウス治療に準じて、喪失水分と電解質を補充する治療では、輸液入れる⇒腸管液が増える(腸管がより拡張)⇒また増やす の悪循環になることをご留意ください。
体液過剰症状(特に胸水・腹水・浮腫)が増悪すれば、減量して脱水を許容する選択肢は症状緩和の検討に値することが多いです。
そのうえで、サンドスタチンを投与することで、輸液を絞ってサンドスタチンで腸管内分泌を減らす⇒腸管が収縮して分泌量が減り症状改善(収縮し、浮腫がとれて消化管が再開通することも期待してよい)
絞る輸液量は、大まかに患者さんの「不感蒸泄量」でよいとされます(体格の小さい高齢者では500cc/d程度)。
サンドスタチンの反応が悪く、脱水症状になることも稀ですがありうるので体液過剰症状(浮腫、胸水、腹水)を毎日理学的にみて患者の苦痛になっているかを評価して、脱水(BUN/creatinine)のバランスを定期的に評価することが必要になります。
なお、口渇は薬剤や口呼吸などの影響を受けるので脱水の指標にはなりません。
★ イレウスのときの口腔ケア

口腔が汚いと不快であるばかりか、吐き気の原因の1つになります。
また、強度の口渇→ダメとしっていても水を飲む→悪心嘔吐も加わって悪化、の悪循環
また、イレウス症例でハイリスクな院内肺炎が起きやすくなる
上記のような理由で、イレウス例では積極的に口腔ケアを行うことを推奨します。
病棟常置の「口腔ケアパンフレット」を参照し、治療が難しい場合は、口腔外科や緩和ケアチームにコンサルトください。
★ イレウスの腫瘍性閉塞に対するステロイド

文献的な有効率は高くない(再開通率)—大まかに最も高かった報告でも1/6程度ですが、血糖値やせん妄、消化性潰瘍などの全身状態を考慮して デカドロン(リンデロンより吃逆が少ない)4~8mgを朝1回×3~7日投与し、効果あれば効果の維持できる最小量まで減量または一旦中止して症状悪化すれば再開。最大1週間使って、自覚症状の改善がなければ中止を推奨します。
★ サンドスタチンの使いかた

消化管分泌抑制薬 サンドスタチン200~300μg/日 (またはブスコパン40~80mg/日)
消化管閉塞全体を対象とした二重盲検研究によって、コストが高いもののサンドスタチンはブスコパンより有意に良い効果が証明されています。
投与経路は、皮下注が原則です(静脈投与は、効果が低くなる、特にTPN内では配合変化などで20%以上下がる)。間欠皮下注として、翼状針を留置しておいて1日3回100μgづつ投与する方法もありますが、QOLを考慮してシリンジポンプによる持続投与を推奨します。
サンドスタチンは、早期開始(小腸内容の拡張が著明になる前)により、イレウスを重篤化させずに治療成功して中止(結局は、コストが安いし患者苦痛が減る)できる可能性があります(エキスパートオピニオンとしてのエビデンスレベル)
※ サンドスタチンは非常にハイコスト(100μあたり約3000円)皮下注が原則ですが、在宅環境下やルートが増えることでQOLを害すると思われる場合には混注でも可能です。配合変化については病棟やチームの薬剤師に確認してください。
★  イレウスに対するプリンペラン投与について

完全閉塞の場合、プリンペランのような蠕動亢進薬は症状を悪化させ、腸管内圧の上昇による穿孔の危険があるため望ましくありません。
大量の麻薬を投与されている症例では、穿孔疼痛やリークによる腹膜炎の痛みがマスクされ致死的になりますので、じゅうぶんご注意ください。
完全閉塞でないと考えられ、プリンペランによる排便や症状緩和が認められる際には、プリンペラン2~6A持続点滴を蠕動が亢進しないくらいに使用してください。まれにパーキソニズムやアカシジアを生じますので、高齢者への長期投与ではご注意ください。
イレウス患者の苦痛を取り除くのに、サンドスタチンだけでは困難で緩和までのタイムラグも問題になります。よって、中枢性制吐剤を眠気の生じない程度併用することが推奨されます。
・ 抗ヒスタミン受容体=クロールトリメトン1~2A持続静注
・ 抗ドパミン受容体=セレネース0.25~0.5A持続静注など
いずれも投与開始後、症状緩和効果と眠気とのバランスを患者個々に判断して投与量を調節してください。


処方サンプル

サンドスタチン300μg の投与オーダー
サンドスタチン(当院は50
μg/1Ap(1cc)のみ採用)を6ccぶんシリンジポンプにセットして、時間0.25cc(TE361)~0.2cc(シリンジポンプ)を翼状針で胸部などに持続皮下注投与 吐き気の悪化時は 他の方法で対応しフラッシュは禁
・消化管閉塞の解除目的のステロイドを追加する場合はデカドロン8
~6mg+生食100mL、朝 点滴
・補助的に中枢性制吐薬を追加する場合は、アタラックスP 50
mg 1Ap またはクロールトリメトン2A/日を輸液に混注