疼痛アセスメントの技術

聞き取りの技術

  • 身体・精神・生活など多角的な評価を推奨(系統的に)=疼痛治療の質を上げるための必要条件。カナダバンクーバーヘルスオーソリティー(VIHA)のマニュアルよりOPQRSTUVの評価方式を中京緩和チームは推奨—以下の(表)参照
  • 再評価(レビュー)=系統評価を行った後に、「痛みがとれない」「再発」したときに評価には、聞き取り、診察、投薬のチェック、内科外科的な視点から患者情報を見直すこと
  • 痛みの評価の必須3要素=①原因の探索、②いまの鎮痛治療が効いているかどうか、③患者や家族のQOL障害の程度
  • がん疼痛の3要素=①がん自体の痛み(他の痛みより圧倒的に多い)、②がん治療に伴う痛み(検査も含む)、③がん進行による間接的におきる痛み(るい痩による褥瘡痛など)、④がんに関係ない合併症としての痛み(リウマチ、片頭痛など)、ただし進行により合併症が悪化すれば③として扱います。toutsu-assessment-1toutsu-assessment-2
  • パターンサンプルの使い方=パターンは個人差があるので、記載してもらうのが原則です。認知症や状態が悪い患者では、上記の表をみせて選んでもらう、というのがよいと思います。
    とくに、パターン2(突出痛、ブレークスルーペイン)とパターン3(ベースラインペインの増悪、フレアともいいます)の鑑別が重要です。パターン3では、オキシコンチンなどの徐放製剤(ベースラインオピオイド)を増量するべきですが、パターン2に対してはこれは眠気やせん妄が起きて、突出痛は改善せず患者QOLを損なうことがよく経験されます。
  • 痛みの性質(OPQRSTUVのうち Q)を聞き取るためのテーブル
    医療者は痛みの性質から、痛みの病態を推測することができる、および高齢や状態の悪い患者さんでは、上手に自分の痛みを表現できないことも少なくないことより以下の表のようなサンプルを見せて「痛みの話し合い」をすると有用です。toutsu-assessment-3

全人的な痛み(Total Pain)について

痛みの治療成績をあげる(治療や医療スタッフへの満足度・QOL向上)には、身体以外の原因の疼痛増強因子を探索することが推奨される。この探索や対処には、医師以外の職種が適していることも多いとされる。(以下の図参照)toutsu-assessment-4

がん疼痛の病態を推理する必要性について

画像や診察から、「痛みが生じている理由」を推理することで、最適な治療を行える可能性が高くなります。上記のPQRSTUV問診は、推理するために手がかり・ヒントを提供できます。
がんの痛み病態は以下の3つがあり、合併することが多いですが、それぞれ評価時に区別して認識してください。

  • 侵害受容性の痛み(一番多い)=人体には一部の組織(髪や爪など)を除いて組織が破壊されるリスクを回避するために侵害受容体という「痛覚神経の末端レセプター」、痛みのセンサーが張り巡らされています。進行がんが正常組織に浸潤破壊することで、このセンサーを刺激することで起きる疼痛で最も頻度が高いタイプです。
  • 炎症性の痛み=腫瘍(はれもの)と言われるように、進行がんは周囲組織に炎症を引き起こすことが少なくありません。がん自体が炎症物質を産生する(骨転移では著明)、壊死や感染も同様に強い炎症を起こし、これが侵害受容体を刺激して痛みを起こします。
  • 神経を刺激する痛み=神経障害性疼痛として、がん自体やがんに伴う病態(浮腫、骨折、抗がん剤など)で痛覚神経が圧迫されたり破壊されたりしておきる疼痛です。
    完全に破壊された(断裂)神経の痛みには、オピオイドによる除痛が難しいことが多いですが、圧迫や可逆性障害のレベルであればオピオイドが有効なことも多いことに留意ください。