オピオイドの選択と処方 副作用対策とその注意点

★ 必ずレスキュードーズ(頓用 疼痛時)を出してください。
全体量が増えたら、それにあわせて、頓用使用量も1日合計量の6分の1に増量してください。 入院時に当直や当番ドクターによってペンタジン(ソセゴン)やインテバン座薬・ボルタレン坐薬・ロキソニン頓用などの指示が出ていて、指示が残っていることがあるので修正してください。

★ オピオイド使用時の制吐剤について 中京病院緩和ケアチームの見解
オピオイド開始時には制吐剤(ノバミンなど)を5~7日ほど定期的に使用することがすすめられています。ただしエビデンスという見地からは(国内・海外のガイドライン)「全員に使用してもしなくてもよい」されています。

我々の見解=オピオイドの吐き気予防、または対応の副作用対策は WHO5原則のうち With Attention to Detail (患者ごとに細かい配慮をもって)の通り患者さんごとに詳細な検討をすることを推奨します。

■ 制吐剤の予防投与が好ましいと思われる症例のサンプル
① 投与前から悪心嘔吐がすでにある (上部消化管原発、多発肝転移など)
② 化学療法などで強い悪心嘔吐を過去に経験している
③ 今後の急激なドーズアップや頻回レスキューが予想される
④ 乗り物酔いしやすい体質
⑤ いったん悪心嘔吐がおきると服薬拒否が予想される(不安が強い)
⑥ 薬剤の種類が増えることを苦せず、自己管理を好む
⑦ 嘔吐によるリスクが高い(例 消化管出血や誤嚥性肺炎など)

■ 制吐剤の予防投与を行わず、悪心嘔吐が出現してからの対応で良いと思われる症例のサンプル
① 消化管・腹部内臓に病変がない(例 肺がんなど)
② 化学療法を含め過去に強い嘔気嘔吐を生じたことがない
③ 薬剤が増えることを強く拒否する
④ 精神的に安定している
⑤ 嘔吐のリスクが低い
⑥ 非経口投与で、かつ急激なドーズアップや頻回レスキューが予想されない

制吐剤自体の副作用

  1. 薬剤性パーキソニズム(うつ状態、能面様顔貌、動くこと少なくなるなど)に注意が必要です。通常のパーキニズムと違って、薬剤性に誘発される場合は、手指の震戦は目立たないことが多いことにもご留意ください。
    投与前から高齢者では血管障害性(多発性の微小脳梗塞)のパーキソニズムをもっている症例も決してまれでないので、これが悪化するリスクがありますので投与前に「すくみ足など歩きにくさ」「ものを掴むときの手指の細かい震戦」に留意してから処方されることを推奨します。
    薬剤を中止して、すぐ改善するケースから週単位の改善時間を要するケースまで様々です(中止して改善しなくても否定できない)。理学所見として、マイヤーソン兆候をみつけるなどして早期に発見し対応することを推奨します。
    薬剤性パーキソニズムを看過しておきる重篤な合併症として、誤嚥性肺炎(または窒息イベント)や転倒骨折があります。これらを防止するためには、早期発見だけでなく、ハイリスク例には処方しない なるべく早期に制吐剤を中止する事が重要です。
  2. アカシジア(夜間不眠、不安感、焦燥感、落ち着かない感じ、イライラして怒りっぽい、下肢や臀部のムズムズ感)も稀ですが苦痛が著しく重要な副作用です。
    典型例の診断は問題なく診断できますが、せん妄との鑑別が難しいケースもあります。治療薬(アキネトンやベンゾジアゼピン系)がせん妄を悪化させることもあるので、経験が乏しい場合は、緩和ケアチームにご相談ください。
    治療は、抗コリン作用のある抗パーキンソン薬であるアキネトン(ビペリデン)が特効的に短時間で症状を緩和でき、治療的診断として行うことも可能です。緑内障や排尿障害など抗コリン薬共通の副作用があるので留意してください。
    の長期投与後に発生するリスクがあります。を患者が訴えた場合には、制吐剤はドーパミン拮抗作用のないもの(抗ヒスタミン剤)に変更してください。最近はジプレキサ2.5mg1Tを使用することも多いです。ジプレキサは糖尿病患者には禁忌ですので注意が必要です。
    オピオイドのレスキューだけを開始する場合、オピオイドとノバミン・トラベルミンを同時内服してもいいですが、嘔気が強く出そうな患者さんの場合は制吐剤だけをあらかじめ定期内服しておいてもらうのも経験的にいい方法です(トラベルミン2T分2、ジプレキサ2.5㎎1Tを定期内服し、疼痛時はオキノームのみを内服、など)

制吐剤の処方サンプル

嘔気嘔吐を予防する一般的な処方

ノバミン3T分3 (高齢者や腎機能低下例では2錠/日が無難)

乗り物酔いしやすい人、パーキソニズムの発症リスクが高い(上記リスト参照)症例へ

トラベルミン3T分3

化学療法中などセロトニン拮抗薬が効果ある場合

糖尿病がない場合:ジプレキサ2.5mg1T寝る前
糖尿病がある場合:ミルダザピン15mg0.5T寝る前
ジプレキサの眠気はそれほどではありませんが抗コリン性副作用(排尿障害や便秘、まれにせん妄を誘発)。リミルダザピンは眠気が強い抗うつ薬なので不眠・不安がある場合にむいていますがジプレキサと同じく抗コリン性副作用に注意が必要です。

非経口投与

プリンぺラン1A×3/日静注、または2~3A持続点滴に混注
クロルトリメトン2~3A持続点滴に混注
ノバミン1~2A持続点滴に混注
セレネース0.25~0.5 A持続点滴に混注 ⇒長期投与でほぼ確実にパーキソニズムを生じます

内服のオピオイド処方による便秘には、耐性形成がないので原則的に予防的な下剤併用してください。(下痢をしている患者や貼布剤・注射薬投与例では処方を検討)

下剤の処方例

酸化マグネシウム製剤 2g前後:下痢の場合、減量してください。
ラキソベロンまたはプルゼニド:便秘時