6. 口渇などの口腔トラブル

味覚異常の原因

① 運搬障害
② 化学受容器(味蕾)障害
③ 神経伝達障害
④ 味覚感受性の低下、亜鉛不足

ケアの方法
口腔乾燥の緩和、湿潤を行う。

対処方法

  1. 口腔内環境の整備
    唾液量、口腔衛生、口腔内細菌(特にカンジダ)、口腔粘膜疾患など
  2. 美味しく食べられる環境の整備
    家族や親しい人と食べる。病室やベッド上でなく、食堂やデイルーム等で食べる
  3. 味覚異常病態にあわせて摂取可能な食品を提供
    だしを効かせる。調味料やスパイスの利用。
    食べやすい形態(刻む、ミキサー、などの使用。トロミ・ムース状)食品の温度

異常の訴えや発見があれば、主治医・緩和支持治療科の医師へ連絡。必要に応じて、歯科口腔外科に受診・回診依頼を行う。

真菌感染症

がん終末期患者はカンジダなどの真菌の口腔内感染のリスクが高い(発症頻度30~50%)。カンジダは日和見感染症であり、全身状態の悪化とともに口腔内に症状が現れる。

カンジダ感染の症状

  • 口腔内の状態
    乾燥、清掃状態の不良、典型例では白色偽膜、粘膜の発赤、荒れ
    乳頭の萎縮、両側の口角炎
  • 疼痛の性質
    ヒリヒリ、ピリピリとした痛み、灼熱感、自発痛、持続性の痛み
    特に熱い物、刺激物による痛み、口腔内全体の痛み
  • 味覚異常
    食事と関係なく口腔内に苦味、渋みを感じる
    醗酵したような甘い匂い

口腔の表在性カンジダ症の治療に用いられる抗真菌薬

アンホテリシンB
(ファンギゾン)
最も強い抗真菌薬
耐性菌はほとんどなし
ほぼすべての真菌をかばー。アスペルギルスにも有効。腸管からはほとんど吸収されない
原液を10~20倍希釈し、1日4回含嗽
ミコナゾール
(フロリード)
副作用少ない
腸管吸収よく、全身移行良い
グラム陽性球菌にも有効
アスペルギルスに無効
ノンアルビカンスにも50%耐性
1日4回、大豆大を口腔内全体に塗布。
塗布後1時間は飲食を控える
イトコナゾール
(イトリゾール)
血中半減期が長いため1日1回投与が可能
アスペルギルスにも有効
1日1回空腹時に20mlを口腔内に含んだうえで内服

抗真菌薬使用時の注意点:薬物の相互作用
 ミコナゾールやイトコナゾールは、薬物の肝臓での代謝を阻害するため、肝代謝の薬物の作用を増強させる相互作用がある。
 併用に注意が必要な薬剤:ワーファリン、オキシコンチン、トリアゾラム(ハルシオン)シンバスタチン(りボバス)ピモジド(オーラップ)アゼルジピン(カルブロック)

口腔乾燥の原因と対応

原因:

唾液分泌そのものの低下
禁食や摂食障害により、唾液分泌を促す刺激が低下
加齢変化に伴う唾液分泌の減少
頭頸部放射線治療、化学療法による唾液腺障害
各種薬剤の副作用・・・モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど医療用麻薬や
向精神薬や抗不安薬、睡眠導入剤など
脱水気味の維持管理(少なめの輸液)
努力呼吸に伴う口呼吸、開口状態の増加
マスク・カヌラによる酸素投与
室内、季節など環境そのものの空気乾燥

対応:

口腔乾燥に対して処方できる薬もあるが、在宅療養中のがん患者には、口腔乾燥に効果があっても、保健適応の問題や内服薬が増えてしまうなどの問題点から、積極的な使用が困難。そのため、口腔乾燥への対応は、対処療法が主体。予後が1~2ヶ月程度と予測される患者は口腔乾燥は、輸液治療によって緩和される見込みは少なく、保湿を中心とした口腔ケアが最も有効とされている。
主体となる保湿剤は、効果や個人差があり、使用感のよい、最も口腔症状が緩和する保湿剤を選ぶことがよい。

口腔乾燥に対して保険適応のある薬剤

商品名一般名・成分剤型保険適応症例使用方法
サリグレン
(30mg)
エポザックカプレル(30mg)
塩酸セビメリン
水和物
Cpシェーグレン症候群1日3回
1回1錠
アテネントール錠(12.5g)アネトールリチオン錠剤胆道系疾患、シェーグレン症候群1日3回
1回2錠
サラジェン錠
(5mg)
塩酸ピロカルピン錠剤頭頸部放射線治療に伴う口腔乾燥症、シェーグレン症候群1日3回
1回1錠
ツムラ
白虎加入参湯
エキス
セッコウ・チモ・コウベイ・カンゾウ・ニンジン顆粒喉の渇き、ほてり1日3回
1回3g
ツムラ
麦門冬湯エキス
バクモントウ・ニンジン・タイソウ・カンゾウ・コウベイ・ハンゲ顆粒痰の切れにくい咳、気管支炎、気管支ぜんそく1日3回
1日3g
サリベートリン酸―水素カリウム・無機塩類配合剤噴霧剤噴霧剤シェーグレン症候群、唾液腺障害1日数回噴霧

蒸散予防

マスクなどで口腔からの水分蒸発を抑える

保湿

保湿効果のあるもので口内を湿潤させる
水、レモン水、2%重層水、氷片を口に含む
各種保湿剤(保湿ジェル、保湿スプレー)
グリセリン含有のうがい薬、人工唾液、白ごま油

口腔乾燥に使用される市販品

商品名一般名・成分剤形
オーラルバランスラクトフェリン
リゾチーム
ジェル液状
リフレケアHヒノキチオールジェル
うるおーらラクトフェリンジェル液状
バトラー口腔ケア
SGシリーズ
Tornareジェルスプレー
ビバ・ジェルエット水・グリセリンジェル
マウスピュア水・グリセリンジェル液状
コンクールマウスリンス、
ジェル
ホエイ蛋白、
EGF
液状
ジェル

国立がんセンター、県立静岡ガンセンターでよく用いられている、保湿含嗽剤の作成法

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うがい薬の作り方

  1. 空の500mlペットボトルを用意
  2. ペットボトルの1/4~1/3位まで水道水を入れる
  3. ペットボトルの中にハチアズレ5包・グリセリン60mlを入れ、よく混ぜる
  4. およそ500mlとなるように③に水道水を加えて再度混ぜる

*菌の繁殖を避けるために、冷蔵庫に保管し、7日以内に使用してください。

うがい薬の使い方

1日4回、毎食後・就寝前を目安におこない、症状により回数を増やしてください。
1回10mlを口に含み、グチュグチュうがいを2分間。

がん患者の口腔に起こるトラブル

  1. 口腔乾燥
    がん治療中は様々な理由により、唾液分泌が障害される。そのため進行がん患者の多くは口腔乾燥を自覚し、苦痛を感じている。特に終末期には様々な口腔乾燥の原因が複合的に関連し、またその時期に用いられる薬剤の多くが口腔乾燥を引き起こす副作用を持ちながら中止が困難tなこともあり、口腔乾燥は非常に強いものとなる。
  2. 口腔感染症
    がん治療そのものによる免疫抑制だけでなく、全身状態の低下や口腔内の清掃状態の悪化、唾液分泌の低下による口腔乾燥などが関連し、口腔内感染のリスクが上がる。口腔常在菌による歯周炎の急性化や粘膜の傷(義歯による褥瘡や粘膜炎など)の二次感染だけでなくカンジダやヘルペスウイルスといった感染症も起きやすくなる。
  3. 歯、歯周組織、義歯などの問題
    義歯不適合や歯科疾患の悪化によるトラブルは、歯科治療を行うことで、患者の苦痛や負担が増えることにならないように心掛ける。時には積極的、抜本的な歯科治療ではなく、対症療法的な処置が望まれる。
  4. 口内炎、口腔粘膜炎
    放射線や抗がん剤の影響による副作用として粘膜炎と全身状態の低下や免疫能の低下などによる粘膜炎があり、終末期にみられる粘膜炎はカンジダ性口内炎・ヘルペス性口内炎など感染が関与するものがほとんどである。
  5. 口腔内出血
    口腔内出血は直接生命に関わることは少ないが、QOLの観点から対応が必要。口腔、咽頭に腫瘍がある患者は出血のリスクが高い上、止血困難なことが多い。
  6. 口臭
    生理的な口腔の悪化のみならず、全身状態に起因する、がん患者特有の病的な口臭も起こる。
  7. 舌苔
    上皮組織や白血球および大量の細菌が苔状に堆積したもの。
  8. 味覚異常
    味覚異常は食欲不振に直結し、栄養状態の悪化を招く。
  9. 骨修飾薬に関連する顎骨壊死
    がんの骨転移のある患者に対して、骨折予防などで使用されるビスフォスフォネート製剤や抗ランクル抗体といった骨修飾の長期使用により、顎骨壊死という重篤な副作用が報告されている。

口腔ケアの実際

  1. 器具の準備
    ・口腔内にあっていて操作性がよいもの
    ・無侵襲にできるもの
  2. 口腔観察 *異常があれば連絡
    要点:
    ・部位:歯肉、口唇、頬粘膜、口蓋、舌など
    ・大きさ
    ・疼痛の有無
    ・色:発赤、白斑など
    ・潰瘍形成、出血の有無、膨隆、腫脹など
    例:
    ・右の頬粘膜に白斑付着物が認められる。疼痛なし。
    ・左舌縁に5mm程度の潰瘍が認められる。出血・疼痛なし。など
  3. 口腔粘膜の保湿
    ・乾燥部位、痂皮の付着部位は重点的に保湿
    ・マッサージするように保湿剤を塗布
  4. 歯間・粘膜の清掃
    ・歯=機械的に歯ブラシで磨いて除去
    ・粘膜=軟組織のため、3~4分保湿して汚染物を軟化させると除去がスムーズ。やわらかい器具(スポンジやガーゼ等)を用い、ケア時の圧に注意する。
  5. 拭掃と口腔観察
  6. 仕上げの保湿
    ・口呼吸で乾燥が進む患者もいるため、1回では不十分。何度も繰り返しケアと保湿をすることで、汚れの付着も防ぐ。

口腔ケアのポイント

がん終末期や在宅療養中の患者は、体に痛み、呼吸困難、悪心・嘔吐、倦怠感など多くの身体的な苦痛症状を抱えていることが多く、口腔ケアにかけられる時間や体位に制限がある。
また、口腔ケアそのものの行為によって、患者が疲労感を強めたり、身体に苦痛が起きてしまうようなことは避けなければいけない。そのため、全身状態と口腔アセスメントを行い、口腔ケアによる苦痛は最小限にとどめるように注意し、有効なケアを提供できることを目標に、現実的な対応を考慮し、患者や家族に関わってゆくことが大切である。

がん終末期の口腔内は下記のような状況が想定される。

  • 口腔内に痂皮や痰が大量に付着し、スポンジだけでのケアは十分に除去できない
  • 口腔内に腫瘍があり、持続的に口腔粘膜から出血が続く、あるいは開口が十分にできない
  • 歯間に食渣やプラークが大量に付着し、スポンジでは十分に除去できず、口臭が改善しない。
  • 全身状態の悪化によりケア方法の見直しやケアの中止をせざるえない。

口腔ケアの意義・目的

  1. 症状緩和
    口腔ケアを行うことで、口腔乾燥や粘膜の爛れ、感染などによる口腔内の不快感や疼痛を和らげることができる。
  2. 経口摂取支援
    がん患者の終末期の経過をみると、全般的にがん患者のADLは末期まで比較的しっかりと保たれており、最後の1~2ヶ月で急速に低下するという特徴がある。食事は亡くなる5~10日前あたりから急速に困難となることが多い。最後まで口から食べることを支援するためにも、しっかりと口腔管理を継続して行うことが求められる。
  3. 感染制御
    口腔内は非常に常在細菌が多く、種類も豊富な部位である。症状がなくても感染源となるようなう蝕や歯周病などの慢性感染病巣が高い頻度で存在し、局所感染、全身感染の原因となる可能性がある。特に誤嚥性肺炎は口腔常在菌がその起因菌の大半を占め、口腔内の衛生管理をすることで発生を抑えることができる。

がん患者の口腔内の特徴

療養されているがん患者は、病状の変化に伴い様々な口腔の問題が出現し、その頻度も高い。

  • 全身状態の悪化に伴い、口腔のセルフケアが困難な状況が加わり、様々な口腔トラブルが生じやすく、重症化しやすい。
  • 患者も医療者の口腔トラブル以外の身体的問題や心の辛さなど全身的な問題に注意やケアが集まりやすく、口腔トラブルへの対応が後回しになりやすい。
  • 全身状態が良好な患者は自らの意思で歯科受診できるが、往診が必要な在宅療養患者は歯科受診の機会が得難い。

口腔トラブル

がん患者を支える口腔ケア

人は食事を口から摂取することで、①基本的欲求が満たされ、②生きることへの意欲に繋がり、③健康の維持・増進、健康の回復に直接的な効果を得る。

もし食事摂取ができないと、人は早晩生命の危機に陥る。そればかりか、「人らしく生きていく」ためには食べることが基本であり、「食べたい」は生きることへの尊厳を表す。しかし、そのためには、口腔が正常に機能することが必須である。

進行がん患者は、口腔の腔機能が低下していることが多い。
たとえば、①化学療法や放射線療法などによる免疫機能の低下でカンジダなどの感染頻度が高い。②衰弱や低栄養状態や脱水で、口腔粘膜炎や口腔乾燥(唾液の自浄作用の低下)となり咀嚼が困難、③痛みや異常味覚で経口摂取意欲が下がる、などである、もし重症になれば、患者に口から食べることを完全に断念せざるをえないことにも少なくない。軽度から重度の障害まで、これらは患者のQOLを低下させて、生きることへの意欲が低下して、「その人らしい人生を全う」できなくなる。

以上のことから、がん患者が口から食事を摂取できるように支援することはたいへん重要な役割といえる。

  1. がん患者の口腔内の特徴
  2. 口腔ケアの意義・目的
  3. 口腔ケアのポイント
  4. 口腔ケアの実際
  5. がん患者の口腔に起こるトラブル
  6. 口腔乾燥の原因と対応
  7. 真菌感染症
  8. ヘルペスウイルスに用いる薬剤
  9. 口腔粘膜炎への対応
  10. 味覚異常の原因