Author: chukyo kanwa care

口腔トラブル

がん患者を支える口腔ケア

人は食事を口から摂取することで、①基本的欲求が満たされ、②生きることへの意欲に繋がり、③健康の維持・増進、健康の回復に直接的な効果を得る。

もし食事摂取ができないと、人は早晩生命の危機に陥る。そればかりか、「人らしく生きていく」ためには食べることが基本であり、「食べたい」は生きることへの尊厳を表す。しかし、そのためには、口腔が正常に機能することが必須である。

進行がん患者は、口腔の腔機能が低下していることが多い。
たとえば、①化学療法や放射線療法などによる免疫機能の低下でカンジダなどの感染頻度が高い。②衰弱や低栄養状態や脱水で、口腔粘膜炎や口腔乾燥(唾液の自浄作用の低下)となり咀嚼が困難、③痛みや異常味覚で経口摂取意欲が下がる、などである、もし重症になれば、患者に口から食べることを完全に断念せざるをえないことにも少なくない。軽度から重度の障害まで、これらは患者のQOLを低下させて、生きることへの意欲が低下して、「その人らしい人生を全う」できなくなる。

以上のことから、がん患者が口から食事を摂取できるように支援することはたいへん重要な役割といえる。

  1. がん患者の口腔内の特徴
  2. 口腔ケアの意義・目的
  3. 口腔ケアのポイント
  4. 口腔ケアの実際
  5. がん患者の口腔に起こるトラブル
  6. 口腔乾燥の原因と対応
  7. 真菌感染症
  8. ヘルペスウイルスに用いる薬剤
  9. 口腔粘膜炎への対応
  10. 味覚異常の原因

 

オピオイドの選択と処方 急にくる痛み(突出痛)への対応

  • 急にくる痛みには、予想可能な痛み(Incidental Pain)と予想できない痛み(Spontaneoun Pain)の2つがあります。前者の例は、ほとんどが「体を動かしたときの骨や筋肉の痛み」ですが、他にもあるので以下にサンプルをあげます。
    ★ 嚥下、そしゃく時 (食道・口腔がん)⇒粘膜の障害を伴うことが多い
    ★ 食事、排便、排尿に関連した痛み⇒平滑筋の攣縮(反射)によるものが多い
    ★ 褥瘡の処置、皮膚への「擦過」⇒皮膚潰瘍や神経障害性(異常過敏:アロディニアとして触覚と痛覚が連絡)
  • 突出痛が患者さんに与えるダメージには差があります
    Incidental Painは、予想ができる痛み=「日常生活障害」がおきるSpontaneoun Painは、いつ来るかわからない(特に夜)=精神的ダメージ

レスキューに対するオピオイド処方について

(採用薬)
内服ではオキノーム(2.5mg)、オプソ(5mg)、バッカル錠ではイーフェン錠(50μg、200μg)が採用されています。注射薬は、すべてレスキューとしても投与できます(1日量の1/10程度、2時間ぶんが目安)。
(ドーズの決め方)
ドーズ決定の基本ルール=内服オピオイドのレスキュードーズは、一般的にベースオピオイドの1/6程度とされます (例、 オキシコンチン40mg/日の患者さんのレスキューはオキノーム5mg程度)
しかし、欧米の詳細かつ大規模な調査によると痛みのパターン図②のような短時間でピークに達し、内服のレスキューでは追いつかず、注射やバッカル錠の対応が必要な突出痛がかなり多いことが判明しています。
痛みパターン・サンプル図のように、ベース痛みだけでなく突出痛に対しても丁寧な問診が必要と思われます。

オピオイドの選択と処方 オキシコンチンが飲めなくなった時の対応(By Mouthの原則)

痛みや全身状態が不安定な時は(例、イレウスや重篤な感染症など)、オキファスト注(オキシコンチンの注射薬)へ変更を推奨します。
理由は、モルヒネ注、フェンタニル注やパッチへローテーションをすることで、経路と薬種の双方を切り替えることとなり、思わぬ副作用リスクが大きくなること(特にドーズが大きいときは)、副作用と疾患双方による意識障害を鑑別する必要が生じる可能性が高いからです。
外来でオキシコンチンが内服できなくなったが、入院が短期間でも不可能な場合は、アンペック坐薬やフェンタニルパッチへの変更が必要になります。
患者ごとの対応が必要なので、以下に処方例を示しますが、安全のために薬剤師やチームドクターにご連絡ください。

入院ができる場合の処方サンプル

内服しているオキシコンチン量の0.75倍をオキファスト注(1Aにオキシコドン10mg含有 )に置き換えて24時間持続の 経静脈、皮下注投与する。

オキファスト注原液持続皮下注(静脈注も同じ)のオーダーサンプル
(サンプル)
オキファスト注5mLを2Ap/合計10mLをテルモTE361にセットして
時間0.05cc、レスキュードーズは、1.0cc/回、20分インターバルで
呼吸数・意識状態に変化なければ、繰り返してレスキュー可です。
(オーダーの注意点)
0.05cc/時の持続皮下注は、オキシコンチン内服で15mg/日とほぼ同じ鎮痛力価になります。
高齢者やハイリスク例での、オキシコンチン開始ドーズは10mg/日が妥当とされます(日本人を対象としての治験において証明すみ)。よって、このような症例に初めて導入するときは、生理食塩水でオキシコドン注を半分に薄めて使用することが推奨されます—内服で8mg/日オキシコンチン相当になります。
(希釈サンプル)
生食5cc オキシコドン注(50mg)1AP セレネース1Ap 時間0.05cc レスキューは1.0cc

入院ができない場合の処方サンプル

オキシコンチン40mg(=経口モルヒネ60mg)をアンペック坐薬10mg×4(6時間ごと)に切り替え。
レスキュードーズは 定期と2時間以上間をあけてアンペック10mg坐薬1個挿入。
(注意) 腎機能低下、すでに傾眠や夜間せん妄があるときは、この処方で疼痛が悪化する可能性が高いです。疼痛がパッチが効いてくるまで(8時間以上)出現するリスクを説明したうえで次にオキシコンチンを服用する(はずだった)時間に フェンタニルパッチ4.2mgを貼付してください。

● フェンタニル注による持続皮下注・持続静脈注について

投与デバイス:TE361 または CADDレガシー または シリンジポンプで原液投与
主な目的=モルヒネやオキシコドンによる腸管蠕動を抑制を避ける (例、再開通が見込める不全イレウスの症例)

【指示】
■ ベース量オーダー時のめやす
0.1cc/時のポンプ設定で、2.4cc/日=おおよそ0.1mgフェンタニル注/日=おおよそ内服モルヒネ 10mg/日=おおよそ内服オキシコドン 7mg/日
■ レスキューオーダーの目安:2時間分早送り。呼吸数≧10回なら30分あけて反復可
ただし、フェンタニルは0.5~1.0cc程度投与しないとレスキューとしての鎮痛効果が乏しい事が多いので、バイタルを確認して4時間以上の投与を行う必要があるケースが多いようです。
■ ベースアップ: 意識清明・RR≧10回を確認して5時間程度のインターバルで増量を検討

● モルヒネ注による持続皮下注・持続静脈注について

投与デバイス:TE361 または CADDレガシー または シリンジポンプで原液投与
主な目的= ①内服モルヒネで管理されていた症例で、不安定状態でのローテーションを避ける、② オキシコドンによる除痛成績が不良な「複雑な痛み」(注)と思われる症例への対応

【指示】
■ ベース量オーダー時のめやす
0.1 cc/時のポンプ設定で、2.4cc/日=24mgモルヒネ注/日=おおよそ内服モルヒネ 50mg~70mg/日=おおよそ内服オキシコドン 30mg~50mg/日
■ レスキューオーダーの目安:2時間分早送り。呼吸数≧10回なら30分あけて反復可
ただし、モルヒネの血中濃度を急激にあげることは、他のオピオイドに比較してせん妄発生のリスクが高いことに注意してください。特に高齢者や脱水・腎機能低下例では、疼痛治療とともにせん妄の観察や対症療法を要することがあります。
■ ベースアップ: 意識清明・RR≧10回を確認して5時間程度のインターバルで増量を検討

オピオイドの選択と処方 副作用対策とその注意点

★ 必ずレスキュードーズ(頓用 疼痛時)を出してください。
全体量が増えたら、それにあわせて、頓用使用量も1日合計量の6分の1に増量してください。 入院時に当直や当番ドクターによってペンタジン(ソセゴン)やインテバン座薬・ボルタレン坐薬・ロキソニン頓用などの指示が出ていて、指示が残っていることがあるので修正してください。

★ オピオイド使用時の制吐剤について 中京病院緩和ケアチームの見解
オピオイド開始時には制吐剤(ノバミンなど)を5~7日ほど定期的に使用することがすすめられています。ただしエビデンスという見地からは(国内・海外のガイドライン)「全員に使用してもしなくてもよい」されています。

我々の見解=オピオイドの吐き気予防、または対応の副作用対策は WHO5原則のうち With Attention to Detail (患者ごとに細かい配慮をもって)の通り患者さんごとに詳細な検討をすることを推奨します。

■ 制吐剤の予防投与が好ましいと思われる症例のサンプル
① 投与前から悪心嘔吐がすでにある (上部消化管原発、多発肝転移など)
② 化学療法などで強い悪心嘔吐を過去に経験している
③ 今後の急激なドーズアップや頻回レスキューが予想される
④ 乗り物酔いしやすい体質
⑤ いったん悪心嘔吐がおきると服薬拒否が予想される(不安が強い)
⑥ 薬剤の種類が増えることを苦せず、自己管理を好む
⑦ 嘔吐によるリスクが高い(例 消化管出血や誤嚥性肺炎など)

■ 制吐剤の予防投与を行わず、悪心嘔吐が出現してからの対応で良いと思われる症例のサンプル
① 消化管・腹部内臓に病変がない(例 肺がんなど)
② 化学療法を含め過去に強い嘔気嘔吐を生じたことがない
③ 薬剤が増えることを強く拒否する
④ 精神的に安定している
⑤ 嘔吐のリスクが低い
⑥ 非経口投与で、かつ急激なドーズアップや頻回レスキューが予想されない

制吐剤自体の副作用

  1. 薬剤性パーキソニズム(うつ状態、能面様顔貌、動くこと少なくなるなど)に注意が必要です。通常のパーキニズムと違って、薬剤性に誘発される場合は、手指の震戦は目立たないことが多いことにもご留意ください。
    投与前から高齢者では血管障害性(多発性の微小脳梗塞)のパーキソニズムをもっている症例も決してまれでないので、これが悪化するリスクがありますので投与前に「すくみ足など歩きにくさ」「ものを掴むときの手指の細かい震戦」に留意してから処方されることを推奨します。
    薬剤を中止して、すぐ改善するケースから週単位の改善時間を要するケースまで様々です(中止して改善しなくても否定できない)。理学所見として、マイヤーソン兆候をみつけるなどして早期に発見し対応することを推奨します。
    薬剤性パーキソニズムを看過しておきる重篤な合併症として、誤嚥性肺炎(または窒息イベント)や転倒骨折があります。これらを防止するためには、早期発見だけでなく、ハイリスク例には処方しない なるべく早期に制吐剤を中止する事が重要です。
  2. アカシジア(夜間不眠、不安感、焦燥感、落ち着かない感じ、イライラして怒りっぽい、下肢や臀部のムズムズ感)も稀ですが苦痛が著しく重要な副作用です。
    典型例の診断は問題なく診断できますが、せん妄との鑑別が難しいケースもあります。治療薬(アキネトンやベンゾジアゼピン系)がせん妄を悪化させることもあるので、経験が乏しい場合は、緩和ケアチームにご相談ください。
    治療は、抗コリン作用のある抗パーキンソン薬であるアキネトン(ビペリデン)が特効的に短時間で症状を緩和でき、治療的診断として行うことも可能です。緑内障や排尿障害など抗コリン薬共通の副作用があるので留意してください。
    の長期投与後に発生するリスクがあります。を患者が訴えた場合には、制吐剤はドーパミン拮抗作用のないもの(抗ヒスタミン剤)に変更してください。最近はジプレキサ2.5mg1Tを使用することも多いです。ジプレキサは糖尿病患者には禁忌ですので注意が必要です。
    オピオイドのレスキューだけを開始する場合、オピオイドとノバミン・トラベルミンを同時内服してもいいですが、嘔気が強く出そうな患者さんの場合は制吐剤だけをあらかじめ定期内服しておいてもらうのも経験的にいい方法です(トラベルミン2T分2、ジプレキサ2.5㎎1Tを定期内服し、疼痛時はオキノームのみを内服、など)

制吐剤の処方サンプル

嘔気嘔吐を予防する一般的な処方

ノバミン3T分3 (高齢者や腎機能低下例では2錠/日が無難)

乗り物酔いしやすい人、パーキソニズムの発症リスクが高い(上記リスト参照)症例へ

トラベルミン3T分3

化学療法中などセロトニン拮抗薬が効果ある場合

糖尿病がない場合:ジプレキサ2.5mg1T寝る前
糖尿病がある場合:ミルダザピン15mg0.5T寝る前
ジプレキサの眠気はそれほどではありませんが抗コリン性副作用(排尿障害や便秘、まれにせん妄を誘発)。リミルダザピンは眠気が強い抗うつ薬なので不眠・不安がある場合にむいていますがジプレキサと同じく抗コリン性副作用に注意が必要です。

非経口投与

プリンぺラン1A×3/日静注、または2~3A持続点滴に混注
クロルトリメトン2~3A持続点滴に混注
ノバミン1~2A持続点滴に混注
セレネース0.25~0.5 A持続点滴に混注 ⇒長期投与でほぼ確実にパーキソニズムを生じます

内服のオピオイド処方による便秘には、耐性形成がないので原則的に予防的な下剤併用してください。(下痢をしている患者や貼布剤・注射薬投与例では処方を検討)

下剤の処方例

酸化マグネシウム製剤 2g前後:下痢の場合、減量してください。
ラキソベロンまたはプルゼニド:便秘時

オピオイドの選択と処方 強オピオイドの処方

オキシコドン製剤

【特徴】モルヒネと比較して副作用は同等か、やや精神症状が少ない
【換算】経口オキシコドン10mg=坐薬モルヒネ10mg=経口モルヒネ15mg=静脈・皮下モルヒネ7.5mg/経口オキシコドン40mg=フェントステープ2mg

処方サンプル

経口投与

オキシコドン5mg×2→5mg×3→10mg×2…。頓用オキノーム散(1日投与量の6分の1)
1時間空けて反復可 1日4~6回まで
除痛が不十分であるか、副作用の管理に難渋したら、緩和ケアチームに連絡してください。

皮下・静脈投与

オキシコンチンが内服できない時の項目サンプルを参照

フェンタニル製剤

【特徴】モルヒネやオキシコドンと比較して便秘や眠気の副作用は有意に少ない。呼吸困難や咳には無効です。
【換算】フェンタニル皮下・静注600μg=フェントステープ2mg1枚(25μg/hr)=モルヒネ60mg内服

処方例

皮下・静脈投与

フェンタニル注のオーダーサンプル参照

経皮投与

当院の院内処方では、経皮吸収型フェンタニル製剤にはデュロテップMTパッチ(3日毎の張り替え)
基本的にはその他のオピオイド鎮痛剤から切り替えて使用します。
例外的に専門家が数日観察できる環境であれば、初回投与も可ですが、保険適応外の使用法であり思わぬ呼吸抑制イベントのリスクがあります。
フェンタニル注との切り替え、他病院からフェントステープ例の紹介・持ち込みに対応するために換算表を以下に示しました。

フェントステープ1mg2mg4mg6mg8mg
デュロテップMTパッチ2.1mg4.2mg8.4mg12.6mg16.8mg
フェンタニル放出速度12.5μg/hr25μg/hr50μg/hr75μg/hr100μg/hr
フェンタニル 1日投与量0.3mg0.6mg1.2mg1.8mg2.4mg

オピオイドの選択と処方 弱オピオイドの処方

トラマール

オピオイド作用、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用、セロトニン再取り込み阻害作用によって鎮痛効果を発揮します。位置付けとしては、弱オピオイドであるリン酸コデインの代替薬です。モルヒネよりも便秘が少なめで、吐き気はほぼ同等程度です。

トラマール300mg内服=モルヒネ内服30~60mg(5~10:1)。
トラマール300mg内服=約70%程度の吸収率(生体利用率)なので200mg注の持続静脈・皮下投与に相当。

※ トラマール300mg内服は添付文書においてはモルヒネ内服60mgに相当するとされてます(同じmg数の比較では、モルヒネの約1/5~1/10の鎮痛能力)。しかし患者さん個々の状態に応じて安全性を重きにとる場合には少なめの1/10換算としてモルヒネ30mgとして変更するようにしてください。オキシコドン内服への切り替えは、モルヒネ内服に換算してから、もう一度換算(例 30mgモルヒネ内服=20mgオキシコドン内服)を推奨します。
※ 保険適応上は、筋肉注のみが認められている薬剤ですので 持続皮下注が必要になっている事を保険査定を回避するために「コメント注記」が必要です。

トラマドール37.5㎎とアセトアミノフェン325㎎が配合された、トラムセット配合錠も発売されています。麻薬扱いにならないので使用しやすい薬剤ですが、保険適応は非がんの慢性疼痛となっていますので、トラマドールを がん疼痛には処方してください。

初回導入の処方サンプル

トラマールカプセル(25mg)

4C(100mg)分4から開始
100mg/日ずつ300mg/日まで増量(25mg4C分4→8C分4→12C分4)
疼痛時頓用:1回量分内服(1日2回まで)

トラマール注(100mg/1アンプル=2cc)

70~100mg/日持続皮下注で開始
50%ずつ200mg/日まで増量
疼痛時頓用:1~2時間分早送り

トラマール2倍希釈による持続皮下注 処方サンプル

トラマール注2A(200mg)+生食4ML/合計8mL をTE-361にセットして
濃度はトラマール25mg/ccです。持続静脈注射は、安全性が確認されていませんので禁止!

開始速度

0.1mL/時から開始

疼痛時頓用

1時間分早送り。効果がないとき2時間分にしても良い

ベースアップ

意識清明・RR≧10回を確認して8時間毎に増量可
-0.1mL/時(トラマール 60mg/日)
-0.2mL/時(トラマール 120mg/日)
-0.3mL/時(トラマール 180mg/日)
-0.4mL/時(トラマール 240mg/日)

レペタン

処方例:レペタン坐薬0.2mg×1~3回 → レペタン0.4mg×2~3回まで。

頓用

1回分

有効限界

1mg(レペタン0.4mg×3で鎮痛できなければ早めに強オピオイドに変更してください)

ペンタジン (ソセゴン 注と内服)

精神依存となるリスクが高く、同等効果を得られるトラマールの使用が可能となったため、がん疼痛といえども、処方は基本的には控えてください。

処方サンプル (がん疼痛にはなるべく回避、離脱のこと)

頓用

ソセゴン錠1回分 または ペンタジン静・筋注7.5~15mg。

有効限界

内服4~6T、注射2~3A(連用する場合早めに強オピオイドに変更してください)

オピオイドの選択と処方 処方できるオピオイド・オピオイドの使い分け

オピオイドの選択と処方戦略

  1. 処方可能なオピオイド
    中京病院では、ベースオピオイドとして
    ① オキシコドン(内服と注射)
    ② モルヒネ(注射、内服、坐薬)
    ③ フェンタニル(注射、貼付、バッカル)
    ④ トラマドール(内服、注射)
    ⑤ レペタン(坐薬と注射)
    を処方することができます。
    (注意)
    ソセゴン(ペンタゾシン)は、依存性形成リスクに比して鎮痛効果が低いため処方を避けてください。
    特にレペタンやソセゴンを、他のオピオイドと併用すると拮抗作用により疼痛が悪化するリスクがありますので注意が必要です— これら拮抗性オピオイドには電子カルテで処方時に注意バルーンが出ます。
  2. オピオイドの使い分け
    ①~④の4製剤の一般的な使い分けの考えかたを図示しました。⑤は特殊例にのみ使用します。
    各薬剤の換算比はここをクリックしてください。切り替え時は、(経験や自身があっても)薬剤師やチームメンバーと「ダブルチェック」することを医療安全上、推奨します。toutsu-opioid-1

疼痛のマネジメントの技術 オピオイド投与のWHO5原則

オピオイド投与のWHO5原則

  • がん疼痛の薬物治療Gold StandardであるWHO方式がん疼痛治療法において鎮痛薬投与の5原則が推奨されています。
    決して特殊なルールではなく、薬物投与の必要十分条件を示したものです。麻薬処方になれている医師のかたも、医療安全と有効性の両面から5原則を意識した処方を推奨します。
  • 麻薬か、非麻薬かを決定= By the Ladder
    痛みの強さに応じて、鎮痛薬のクラスを決める原則です。強い痛み(例 痛みでほとんど寝れない、患者評価では通常はNRSで7~8以上)が慢性的に続く場合は、非オピオイドでは除痛できない可能性が高い
  • 必要な用量を決定(調節)=For the Individual
    オピオイドは、痛みをとりのぞくのに必要なドーズが患者ごとに大きく異なり、血中濃度と効果が相関関係にあるため、至適なドーズに至らないと「副作用はでるのに、痛みはとりきれてない」状態になります。
    日本では文化的に欧米より、オピオイドへの恐怖・不安感が大きいこともあり、日本のオピオイド処方は、「ドーズ不足」のパーセンテージが高いと推測されています。
  • 濃度を維持するためのスケジュールを最適化=By the Clock
    オピオイドは、上記のように血中濃度と効果が相関するため、患者ごとの痛みのパターンにあわせて内服オピオイドの投与スケジュールを最適化するべきです。
    例として、欧州緩和医療学会のGL推奨のように、寝る前には日中の2回分を服用することで夜間~未明の痛みを防ぐ工夫などがあります。
  • 最適な投与経路を決める=By Mouth
    オピオイドを投与する経路として、経口が可能であれば最も簡便でありQOL上ベストです。しかし、経口投与でQOLが低下(吐き気や便秘、眠気)する症例は少なくないので、持続皮下注、静脈投与、経皮貼付、坐薬、バッカルや舌下など様々な経路をQOLを指標として検討してください。
    オピオイドの生体利用率(吸収率)によって、経路変更後のドーズはさまざまです。経験があっても、病棟薬剤師や緩和ケアチームにご相談されるダブルチェックをお勧めします。
    また投与経路と薬剤を同時に変更する(ルートスイッチとオピオイドスイッチ)よりも経路だけ変更するほうが、医療安全的にはベターであると我々チームは考えております。
  • 副作用対策と説明責任=With Attention to Detail
    オピオイドには、副作用が必ず伴いますので副作用対策が必須です(便秘や下痢、眠気)。副作用対策のプランを治療を受ける患者さんやご家族に丁寧に説明するべきことは、WHO方式がん疼痛治療法で重要なポイントです。
    「痛いまま、副作用で苦しむ」ことを回避するために、説明は文書を渡して丁寧に、患者家族の理解度に応じた説明が必要です。
    緩和ケアチームは、説明用のツールを作成しておりますので、チームメンバーや病棟薬剤師に必要時はご連絡ください。
  • 5原則の根本的理解=以下にしめすように適切な処方の必要・十分条件です。

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疼痛のマネジメントの技術 非オピオイドの選択と副作用(NSAIDsとアセトアミノフェン(ACT))

A. 非オピオイドの選択と副作用(NSAIDsとアセトアミノフェン(ACT))

NSAIDSの投薬における注意点

  • 病歴問診の必要性=投与中・投与予定の患者さんについて、胃十二指腸潰瘍の既往・現病歴は必ずとってください。
    リスクがある場合は、ACTまたは低リスクNSAIDs(COX2選択性の高い薬剤、中京病院はモービックやセレコックス)が採用されています。
    (注意)これらのCOX2選択性NSAIDsは、腎障害については他の薬剤と同等であり、まれですが虚血性心疾患リスクも指摘されています。
    NSAIDs問診時に、忘れがちな項目として薬疹があるので忘れないでください。NSAIDsは抗生剤とともに使用後数日してからも薬疹をおこしやすい薬剤です。既往がある場合は重篤になる可能性もあり、問診と投与中の薬疹に注意が必要です。
  • 消化性潰瘍の予防にはプロトンポンプ阻害薬が必要です。H2ブロッカーは通常ドーズでは不十分です。
  • 抗がん剤のセットには高用量のステロイドが入るメニューが多いので注意が必要です。とくにアリムタ( ペメトレキセド)投与・投与予定例では、NSAIDsの腎毒性を増強するため、併用禁忌と考えましょう。
  • NSAIDsで除痛できず、オピオイドを開始するときにも、病状が安定するまでは中止せずオピオイドとの「併用」を推奨します。
    その理由は、① オピオイドにない抗炎症作用による鎮痛効果があるため鎮痛の質が良くなる、および② NSAIDs中止後のリバウンドによりオピオイドの増量ピッチがあがることでオピオイド副作用が強くでるからです。ただし、NSAIDs長期服用は副作用リスクが高まるので注意が必要です。
  • 処方サンプル
    経口可能…ロキソニン3T・セレコックス(100mg)2T など
    経口不能…ロピオン0.5~1.0A・生食50~100mL×3 定期+頓用(1日3Aまで)ボルタレン*坐薬25~50mg×3 定期+頓用(1日150mgまで)
  • * ボルタレン坐薬は最強の抗炎症・鎮痛作用をもつ特殊なNSAIDsです。特に骨盤内疼痛は、この薬剤でないと取れないこともあります。
    ただし、欠点としては、①連用による消化性潰瘍発生・出血リスクが非常に高いこと、②患者の依存性がおきうること、がありますのでご注意のうえ処方してください。

アセトアミノフェン(ACT)の投薬における注意点

  • 腎不全・腎障害にも使いやすい—透析患者さんでは、腎障害リスクがないのでNSAIDs処方される事があります。しかし消化性潰瘍や血小板凝集抑制などの副作用が予想を超えて高くなりえます。特に長期使用や消化性潰瘍の病歴がある症例ではNSAIDs処方を避けるように推奨します。
    このような症例では、ACT(アセトアミノフェン)を、2.4~4.0g 分3~4を推奨します。オピオイド同様に、血中濃度と鎮痛効果に相関関係があり、低用量(1回服用500mg未満1日量2g未満など)では鎮痛効果が不十分です。
  • 肝機能障害を起こす可能性があり、定期的な採血が推奨されます。ハイリスク例は、①脂肪肝・慢性肝炎などの肝疾患、②多発肝転移・胆汁排泄障害、③絶食などで低栄養状態(解毒酵素の枯渇リスク)です。
  • NSAIDsとACTの相加効果=NSAIDsだけで除痛できないが、オピオイド導入が難しい(すでに夜間せん妄がある、呼吸状態が不良など)と思われるときに特例的・一時的な時間稼ぎというべき方法として、NSAIDsに加えてアセトアミノフェン2.4~4.0g 分3~4の併用もご検討ください。
    特に、レスキュードーズとして夜間の痛みの頓用として800mg/回程度の処方がオピオイドによるせん妄悪化を回避することも可能です。
  • 経口不能例では、注射薬の「アセリオ静注用1000mg」が発売されており、点滴で使用できるようになりました。

疼痛アセスメントの技術

聞き取りの技術

  • 身体・精神・生活など多角的な評価を推奨(系統的に)=疼痛治療の質を上げるための必要条件。カナダバンクーバーヘルスオーソリティー(VIHA)のマニュアルよりOPQRSTUVの評価方式を中京緩和チームは推奨—以下の(表)参照
  • 再評価(レビュー)=系統評価を行った後に、「痛みがとれない」「再発」したときに評価には、聞き取り、診察、投薬のチェック、内科外科的な視点から患者情報を見直すこと
  • 痛みの評価の必須3要素=①原因の探索、②いまの鎮痛治療が効いているかどうか、③患者や家族のQOL障害の程度
  • がん疼痛の3要素=①がん自体の痛み(他の痛みより圧倒的に多い)、②がん治療に伴う痛み(検査も含む)、③がん進行による間接的におきる痛み(るい痩による褥瘡痛など)、④がんに関係ない合併症としての痛み(リウマチ、片頭痛など)、ただし進行により合併症が悪化すれば③として扱います。toutsu-assessment-1toutsu-assessment-2
  • パターンサンプルの使い方=パターンは個人差があるので、記載してもらうのが原則です。認知症や状態が悪い患者では、上記の表をみせて選んでもらう、というのがよいと思います。
    とくに、パターン2(突出痛、ブレークスルーペイン)とパターン3(ベースラインペインの増悪、フレアともいいます)の鑑別が重要です。パターン3では、オキシコンチンなどの徐放製剤(ベースラインオピオイド)を増量するべきですが、パターン2に対してはこれは眠気やせん妄が起きて、突出痛は改善せず患者QOLを損なうことがよく経験されます。
  • 痛みの性質(OPQRSTUVのうち Q)を聞き取るためのテーブル
    医療者は痛みの性質から、痛みの病態を推測することができる、および高齢や状態の悪い患者さんでは、上手に自分の痛みを表現できないことも少なくないことより以下の表のようなサンプルを見せて「痛みの話し合い」をすると有用です。toutsu-assessment-3

全人的な痛み(Total Pain)について

痛みの治療成績をあげる(治療や医療スタッフへの満足度・QOL向上)には、身体以外の原因の疼痛増強因子を探索することが推奨される。この探索や対処には、医師以外の職種が適していることも多いとされる。(以下の図参照)toutsu-assessment-4

がん疼痛の病態を推理する必要性について

画像や診察から、「痛みが生じている理由」を推理することで、最適な治療を行える可能性が高くなります。上記のPQRSTUV問診は、推理するために手がかり・ヒントを提供できます。
がんの痛み病態は以下の3つがあり、合併することが多いですが、それぞれ評価時に区別して認識してください。

  • 侵害受容性の痛み(一番多い)=人体には一部の組織(髪や爪など)を除いて組織が破壊されるリスクを回避するために侵害受容体という「痛覚神経の末端レセプター」、痛みのセンサーが張り巡らされています。進行がんが正常組織に浸潤破壊することで、このセンサーを刺激することで起きる疼痛で最も頻度が高いタイプです。
  • 炎症性の痛み=腫瘍(はれもの)と言われるように、進行がんは周囲組織に炎症を引き起こすことが少なくありません。がん自体が炎症物質を産生する(骨転移では著明)、壊死や感染も同様に強い炎症を起こし、これが侵害受容体を刺激して痛みを起こします。
  • 神経を刺激する痛み=神経障害性疼痛として、がん自体やがんに伴う病態(浮腫、骨折、抗がん剤など)で痛覚神経が圧迫されたり破壊されたりしておきる疼痛です。
    完全に破壊された(断裂)神経の痛みには、オピオイドによる除痛が難しいことが多いですが、圧迫や可逆性障害のレベルであればオピオイドが有効なことも多いことに留意ください。